早期の大腸癌はお腹を切ることなく内視鏡で切除が可能です
~早期悪性腫瘍大腸粘膜下層剥離術(大腸ESD)について~
大腸腫瘍は腫瘍全体の中でも増加傾向にあり、欧米諸国と比べても日本は顕著な増加傾向を認めています。現在大腸癌は、男女癌死亡原因の第2位となっていますが、現在の顕著な増加傾向を考慮いたしますといずれ第1位になることもあり得ると推測されています。
当院院長・原田医師は前施設で、年間100件以上の大腸ESDを行っていました。2018年に施行した大腸ESD 134例中の合併症率は、穿孔 0% (0件)、術後出血 3.0% (4件)でした(2019年度全国ランキング24位、千葉県ランキング1位でした)。
原田院長紹介
院長:原田 英明 Harada Hideaki
防衛医科大学 平成16年卒
職歴
元新東京病院消化器内科・主任部長
専門領域
内視鏡検査・早期消化器癌内視鏡的粘膜下層剥離術
認定・資格等
- 日本内科学会 認定医
- 日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医
- 日本消化器病学会 専門医
所属学会等
- 日本消化器内視鏡学会 関東支部評議員
- 日本消化器病学会
- 日本消化管学会
- 日本内科学会
- ESGE(欧州消化器内視鏡学会) International member
- ASGE(米国消化器内視鏡学会) International member
*治療のご相談は、予約センターないし外来にて承っています。外来は予約が無くても可能です。
~大腸ESDのメリット~
内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD;endoscopic submucosal dissection)は、腫瘍径に関わらず腫瘍の一括切除が可能であり、従来の内視鏡治療では切除困難であった腫瘍に対しても内視鏡での低侵襲な治療が可能となってきました。特に腫瘍径が2㎝以上のLST病変に対して広く適応されています(図1)。[1]
図1: 直腸LST病変
当科では、安定した大腸ESD治療を患者さんに提供するためいくつかの工夫をしています。
~水浸下での大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(WP-ESD法)~
安全に治療を行うために工夫としてWP-ESD法(Water-pocket endoscopic submucosal dissection法)は、原田医師が考案した治療法です[2, 3]。WP-ESD法は、粘膜下pocketを作成し、pocket内にスコープを進め、間欠的に生理食塩水を注水して水浸下で粘膜下層の剥離を行い腫瘍を切除します(図3-1)。通常のESDでは二酸化炭素などの送気下で行われますが、送気下で電気メスを使用すると煙の発生や送気による腸壁の伸展のため粘膜下層の視認性が低下するなどのデメリットがあります。一方、水浸下でのESDでは電気メスによる煙の発生抑制効果、内視鏡画面の拡大効果などによる粘膜下層の視認性向上のメリットがあります。また水浸下での剥離は、粘膜下層のtraction(牽引)効果により視野が良好となります。そのため剥離ラインが明確になり(図3-2)、筋層への過剰な焼灼を予防することができるとされています。一方通常のESDの場合、粘膜下層の局注剤が周囲に流出し局注剤によるtraction(牽引)が消失することがあり、治療時間の延長や合併症につながる恐れがあり得ます(図3-3)。
図3-1: WP-ESD法
~術後合併症に対する対策~
大腸ESD術後合併症予防目的にクリップ閉鎖術を行っています。
大腸ESD後の切除後潰瘍底は基本的には剥き出しの状態で術後経過を見ます(図4)。粘膜が欠損した状態の潰瘍底に直接糞便や便汁が曝されるため術後の腹痛や発熱の原因の一つになると言われています。
原田グループによるクリップ閉鎖術の研究:
大腸ESD後の術後潰瘍底に対してクリップ閉鎖を行った群と行わなかった群との2群に分けて術後合併症に関して比較検討したところクリップ閉鎖群は非閉鎖群と比べ術後合併症が低いことが判明しました (閉鎖群の合併症率7.3% [9/123] vs. 非閉鎖群の合併症率22.7% [20/88]; P < 0.001) [4]。大腸ESD後の術後潰瘍底に対するクリップ閉鎖は術後合併症を低減させることが示唆されたため、大腸ESD後に術後合併症予防目的にクリッピングによる術後潰瘍底の閉鎖を行っています。クリップ閉鎖術は入院期間の短縮にも寄与するものと考えています。
図4: 大腸ESD後クリップ閉鎖術
REFERENCES
[1] Tanaka S, Oka S, Chayama K. Colorectal endoscopic submucosal dissection: present status and future perspective, including its differentiation from endoscopic mucosal resection. J Gastroenterol 2008; 43: 641-651.
[2] Harada H, Murakami D, Suehiro S, et al. Water-pocket endoscopic submucosal dissection for superficial gastric neoplasms. Gastrointest. Endosc. 2018; 88: 253-60.
[3] Harada H, Nakahara R, Murakami D, et al. Saline-pocket endoscopic submucosal dissection for superficial colorectal neoplasms: a randomized controlled trial (with video). Gastrointest Endosc. 2019; 90: 278-87.
[4] Harada H, Suehiro S, Murakami D, et al. Clinical impact of prophylactic clip closure of mucosal defects for adverse events after colorectal endoscopic submucosal dissection. Endosc Int Open. 2017; 05: E1165-71.
大腸ESD入院治療の流れ
大腸ESDの外来から入院・退院、退院以降の外来の流れについて解説
外来
大腸腫瘍の治療目的で紹介状をお持ちになった患者さんは、大腸ESD専門外来で診察を行うようにしています(月曜~金曜の午前)。なるべく当日中に必要な検査を行い、治療日程をその日に決めるようにしています。患者さんによっては、より詳しい検査が必要になることもあります。その場合は、検査日を決めて再度検査に来ていただくこともありますので、何卒ご理解頂きたいと思います。
入院
大腸ESD専門外来にて入院日および治療日を決定します。入院に関しては担当の看護師から詳しい説明があります。
治療当日
前日より大腸内をクリーンな状態にしてもらうために特別食および眠前に軽い下剤をかけてもらいます。当日は、大腸前処置用の洗腸剤を飲んでもらい大腸内をクリーンにします。大腸前処置後に治療内視鏡室に移動してもらいます(治療の時間帯は、他の患者さんの治療の流れにより前後することがあります)。治療中は、静脈麻酔剤を使用しますので意識はほとんどありません(呼吸は自発呼吸となります)。
術後
術後は、一般病棟に戻ってもらいます。侵襲が少ない病変を治療された患者さんでは、その日から飲水は可能となります。大きい病変や合併症の恐れのある患者さんでは手術当日は絶飲食となります。手術翌日に腹痛や血便などが認められない場合には、昼頃から食事開始(全粥食)となります。経過次第ですが、翌日ないし翌々日に退院となります(ほとんどの患者さんが2泊3日ないし3泊4日で退院されます。全国平均の7.5日の入院期間に比べ短期間での入院となっています)。
退院後の外来
切除した病理検体の結果説明のため退院後2~3週間前後に大腸ESD専門外来を受診して頂きます。病理結果を説明し、いわゆる治癒切除の場合には当科外来もしくは紹介元の先生方と連携して今後の診療を継続していきます。非治癒切除の場合には、追加外科切除などの治療が必要となります。ESD適応となる患者さんは腹腔鏡での治療が可能である方がほとんどですので、腹腔鏡治療をお勧めしています。